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「砂丘」で育ったブドウのワインを、飲んだことがありますか?

2026/07/01

「砂丘」で育ったブドウのワインを、飲んだことがありますか?

カウンターに並んだのは、白と赤、2本のワイン。ボトルには、鳥取県の形をかたどったラベルに「北条ワイン」と書かれています。

鳥取と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは「砂丘」でしょう。その砂丘で、ブドウが育つ——と言われても、ちょっと想像がつかないかもしれません。けれど、これは作り話ではありません。鳥取県北栄町の「北条ワイン醸造所」は、1944年の創業以来、日本海沿いの北条砂丘で育てたブドウからワインを生み出してきた、れっきとした日本ワインの造り手です。

来月(2026年7月)のやみつきビストロのオススメは、この2本。知る人ぞ知る銘柄ですが、はじめての方にこそ味わってほしいワインです。

戦争が生んだワイナリー

北条ワイン醸造所の歴史は、ワインからではなく、戦争から始まります。

創業は1944年(昭和19年)。当初はワイナリーではなく、軍需省の命によって「酒石酸(しゅせきさん)」を製造する工場として設立されました。酒石酸は、ワイン醸造の過程で生まれる結晶で、当時は軍需物資として求められていたのです。戦時下、この地のブドウは「飲むため」ではなく、まず酒石酸をとるために搾られていました。砂丘のブドウ畑が、静かに時代の産業を支えていた——そう知ると、グラスの一杯にも少し違った重みを感じます。

戦争が終わると、酒石酸の需要はなくなりました。残されたのは、ブドウ畑と、醸造の技術。これを活かしてワイン造りへと舵を切ったのが、いまの北条ワイン醸造所の出発点です。創業以来貫いてきたのは、「量にはこだわらず、地元産葡萄にこだわり、より良い品質を求め価値のあるワインを造る」という信念。2024年には、創業80周年を迎えました。

砂丘がブドウを育てる

「砂地でブドウが育つのか」と思われるかもしれませんが、実は砂丘はブドウ栽培に向いた土地です。北条砂丘でのブドウ栽培の歴史は、江戸時代までさかのぼります。

砂地は水を溜め込まず、すっと抜けるため、過湿を嫌うブドウには好都合。砂が日中の光を照り返してたっぷり陽を当て、さらに日本海から吹く海風が、昼と夜とで大きな寒暖差を生みます。この寒暖差が、ブドウに酸と香りを蓄えさせる。世界的にも砂丘でのブドウ栽培は珍しく、北条ワインは、この特異な土地の個性をそのままボトルに映した「砂丘のワイン」と言えます。

日本ワインというと山梨や長野を思い浮かべる方が多いですが、北条ワイン醸造所は、中四国・九州地域では最も古く、西日本全体でも3番目に長い歴史を持つワイナリー。その歩みを、鳥取の砂丘で80年にわたり静かに重ねてきました。

しゅんシェフ おすすめ|来月の2本

北条ワイン 赤

北条砂丘で育てたマスカット・ベーリーAから造られる赤。日本を代表する赤ワイン用品種を、砂丘のテロワールで仕立てた一本です。アルコールは12%、味わいは辛口で、ライトとミディアムのちょうど中間あたり。

マイルドで程よい酸味と、軽くソフトな渋み。タンニンもしっかりとあって、はじめて赤ワインを飲む方にも、普段から飲み慣れた方にも楽しめる赤です。赤ワインは「お肉料理と」と言われがちですが、この一本は味噌や醤油の風味にもよく合い、和食ともしっくり馴染みます。マスカット・ベーリーAは、和食の発酵調味料とも合わせやすい品種です。

やみつきビストロでは、鶏もも肉のグリルや赤身肉のソテー、トマトソースの煮込み、シャルキュトリー、味噌や醤油を使った和素材の前菜などとの相性がおすすめです。

北条ワイン 白

同じ北条ワイン醸造所が、砂丘のブドウから仕立てる白。グラスに注ぐと、透明感のある美しい黄金色が広がります。白身魚のカルパッチョや、旬の緑野菜・ハーブを使った前菜、魚介のマリネなど、軽やかな一皿と好相性。7月の料理に合わせて、しゅんシェフがペアリングをご提案します。

飲むだけじゃない、土地の物語を味わう一杯

北条ワインは、ただ美味しいだけのワインではありません。

栓を抜くたびに、鳥取・日本海沿いの砂丘と、戦後に酒石酸工場から再出発した造り手の歩み、そして砂地で根を張るブドウの姿が見えてきます。グラスを傾けるたび、砂丘が育てた「日本らしいワイン」の物語を、少しだけ分かち合える。

そんなワインを、新宿三丁目の小さなビストロで、大切な人と味わっていただけたら。しゅんシェフが選ぶ7月の料理と合わせて、ぜひお試しください。